読書の秋、逗子が舞台の小説『不如帰』(徳富蘆花著)を読んで知った驚きのタイトル由来

 

今回は趣向を変えて、小説『不如帰(ほととぎす)』のご紹介をしようと思います。

読書の秋にかこつけて、ちょっと文化的な記事もありかなと。

逗子の人なら必ず知ってる浪子不動。浪子(なみこ)とは、小説に登場するヒロインの名前です。

正式には高養寺と言いますが、徳富蘆花の名作『不如帰』の舞台となって以来、いつしか浪子不動と呼ばれるようになったそうな。

不動を訪ねれば、その眼前の海上に石碑が建っていることに気が付くでしょう。

不如帰は「ほととぎす」と読みますが、蘆花本人は「ふじょき」とも呼んでいます。

明治期になって、逗子の名を世に知らしめたというこの名作『不如帰』。

でも、一体全体どういう話なんすかね?

知っているけど知らないモヤモヤを、この際解いてみようということで。

実際に読んでみました。*以下、もろネタバレです


時は明治。今にも日清戦争に突入しようかという軍国主義隆盛の時代。
舞台は、浪子と夫・川島武男が伊香保でワラビ採りに遊びに来ている所から封切られます。
浪子(旧姓・片岡)は良家のご令嬢で陸軍中将の娘。一方の武男は海軍少尉という立場の立派な軍人。
二人は新婚で、とても仲良く暮らしていました。

片岡家は裕福な家庭だったでしょうが、浪子は実の母に早く先立たれていました。
中将の後妻、いわゆる継母から疎まれ、精神的には窮屈な生活をしていました。
で、ようやく愛する人(武男)と結婚して実家から離れられたは良かったのですが。

すると今度は、嫁いだ先で小うるさい姑(武男の母)と一緒に暮らさねばならなくなりました。
武男は仕事上、それにご時世的にも家にいないことが多いです。
だから、過ごす時間のほとんどが、姑との生活になってしまいました。
しかも、リウマチに罹ってさらに気難しくなっている姑です。
それでも愛する人の親。浪子は健気に尽くして夫の帰りを待ちました。武男が帰れば幸せでした。

そんな中、特別寒い冬が来て、浪子は体調を崩してしまいます。
なかなか治らないのでおかしいなと思っていたら、結核を患ったことが判明しました。
結核といえば、当時としては致命的な病気です。

一方で、この事態を密かに喜ぶ人たちがいました。
一人は千々岩(ちぢいわ)という男。彼は武男の母に育てられた孤児で、武男にとっては年上の従兄弟にあたります。
千々岩は浪子に思いを寄せていたのに、知らぬ間に武男に嫁に取られてしまった。
嫉妬深くずる賢い性質で、浪子に破廉恥な手紙を送りつけたこともあります。
さらには、無断で武男を保証人にして借金で迷惑を掛け、川島家から絶縁されてしまいました。

もう一人は、山木という商人。
愛娘の豊が武男を好いており、娘は武男の結婚で気落ちしている。家のためにも一肌脱ぎたいと思っている。
不幸なことに、この二人が手を組んでしまったのです。

恋に破れ、投資に失敗、仕事に失敗といったボロボロの千々岩はとうとう腹癒せを始めました。
武男の母にとりいって、浪子と離縁するようけしかけるのです。
結核は伝染するぞ。武男に感染るぞ。子供が生まれたら大変だぞ。川島家の危機だ!という具合に。

すっかりその気になった武男の母は、浪子と離縁するよう息子に迫りました。
武男はもちろん大反対です。話は平行線のまま、武男は再び長期出張に出て行きます。

すると、武男の母がとんでもない行動に出ました。
なんと武男が本土から離れているのをこれ幸いにと、勝手に離縁話を進めてしまうのです。
これに協力したのが山木で、娘の豊を下女として川島家へ派遣することに成功します。
浪子の荷物は、早々と姑が実家へ送り返したそうな。

突然、実家に呼び戻された浪子。
何も知らない浪子は、自宅にあるはずの箪笥や鏡台が実家に戻っている様子を見て事の次第に気付きました。
浪子は、優しく迎え入れてくれた父の膝に跪いて泣き咽ぶのでした(180ページ)。

久しぶりに帰った武男もそれを知った時、大いに驚き悲しみました。
浪子と武男の愛は、親の企てで引き裂かれてしまったのです。

おっと、全然逗子が出て来ませんね(笑)。
逗子は片岡家の別荘地として、病気になった浪子の療養先として登場します。
武男は海軍がある横須賀へ行く度に、ちょくちょく浪子を見舞いました。
もちろん、逗子に行くことに反対していた母には内緒です。

浪子不動は、浪子と武男が愛を語らった場所です。
病で弱気になった浪子が泣き出し、武男が励ますシーンは印象に残ることでしょう(134ページあたり)。

離縁した後も、二人の気持ちは固く繋がっていました。
武男が日清戦争で怪我を負い、佐世保で治療していた時のこと。
差出人不明の荷物(衣服や好物)が武男の元に届けられました。
もしやと思い、包み紙に書かれた筆跡を見ると。。。
それに加えて、縫える衣のひと針ごとの痕を見るなり、武男は浪子と確信し、男涙を流すのでした。

その後、山科の駅ですれ違ったのを最後に、浪子は儚い人となりました。
女として生を受けたことを恨むセリフは、よく知られている通りです。
ついでに言うと、千々岩は戦死、豊は武男の母のいびりに耐えきれず出て行くことになったとさ。


だいたいの話の内容はこんな感じでした。
これで、浪子が悲劇のヒロインと呼ばれる所以が分かりましたね。随分ひどい話です。
個人的には、悪役の千々岩と山木は言うに及ばず、
母に対して強く出られない武男の坊っちゃまぶりに腹が立ちました。
しかし時代は変われど、グッとくるシーンがいくつかありました。

なお、巻末の解説が秀逸です。
・本作は“〈家〉の論理”というべき、恐るべき旧習を批判的に問題化している
・武男は家の論理に対して、「不人情」、「不義理」というモラルで対抗した
・つまり、この時代には〈愛〉が〈家〉の論理に対抗するイデオロギーたり得ていなかった
・『不如帰』とは、血を吐いて鳴くホトトギスのメタファーで、吐血して泣く浪子を指している
・病魔に敗れた浪子の死が戦争遂行を肯定する機能を果たしている
→タイトルに関する指摘については、納得しつつも恐ろしさを感じました

細々とした感想は省きますが、「昔は良かった」ではなく、「今が一番いい」と思える小説でした。
『不如帰』を読んでから浪子不動を訪ねると、一味違った感慨のようなものを感じます。
これぞ、読書と旅が融合した時の醍醐味ですね!

*明治に書かれた文体なので特に最初は読みづらいかもしれませんが、徐々に慣れますよ。

 

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